f:id:m_shiro:20170528162313j:plain

5月になり、藤やネモフィラが満開になると、いつも、青さんのことを思い出す。

ふだんは、特別、仲が良いということもなく、気が向いたら、すこし話すという、それだけの関係。いわゆる、知人というものだったのだけど(もしかしたら、それ以下だったかもしれない)、私は、あの人の撮る写真が好きで、それをよく眺めていた。

ある日、どこかに出かけるということで、何かいい場所がないか探していたので、私は、ネモフィラがたくさん咲いている場所をすすめた。あの人は、青色がとても似合う人だったから、ネモフィラも青だし、丁度いいかもしれない、という単純な理由。結局、あの人は、ネモフィラを見に行って、写真を撮って帰ってきた。ネモフィラは、風で倒れちゃってたよって言ってて、すこし、申し訳ない気もちになった。

それから、しばらく経って、青さんが、写真を送ってくれることになった。部屋に青さんの写真があるだなんて、どんなにすてきなんだろうと思うと、とてもワクワクした。そこで、私は、青さんの目が見えなくなってしまうという話を聞いた。

その話を聞いたときは、何と返したらいいのか全く分からなくて、そうだったんですね、としか言うことができなかった。どうやって声をかけても、相手を傷つけるようなことしか言えない気がした。でも、何も言わないことも、あの人を傷つけてしまう気がして、ずっと、ぐるぐるループしていた。

今も、あのとき、もう少し、気の利いたことを言えたらよかったのに、という気もちがなくならない。あれからずっと、話していないし、姿を見ることもない。結局、誰にもなにもいわず、いなくなってしまった。あの人は今も、ちゃんと生きているのだろうか。

いつか、ネモフィラを見に行こうと思っているのだけど、今年は見にいくことができなかったから、来年こそは行けたらいい。もしくは、河内藤園に。

青さんの代わりに、だなんてそんな大それたことは言わないけれど、一度どんなところなのか、きちんと見ておきたいな、と思う。



手紙

f:id:m_shiro:20170517215454j:plain

以前、妹から、「どうしてもしんどくなったときに見る手紙」をもらった。

こっちに引っ越してきてから、何度もつらくなるときがあって、そのたびに開けようと思っていたのだけど、まだ、何となく開けるときではない気がして、ずっと開けていなかったものだ。

先日、それを開けた。何でと言われると、なんとなく、今が開けるときだ、という気がしただけなのだけど。

最近の私といえば、ひどく余裕がなかったのだ。仕事で失敗をしてしまって、神経はすりへり、帰って、ご飯を食べ、お風呂に入り、死んだように眠る日々を繰り返していた。怒られると、自分のことを全否定されているような気もちになる。皆は私のことを、使えないやつだと思っていて、これでは嫌われてしまうという考えが頭から離れない。いつも話をする人も、なんだか忙しそうで話しをすることができなかったし、家族を頼るわけにもいかなかった。なんだか、一人ぼっちのような気がした。

だから、妹からもらった手紙を開けた。(今思えば、こんなことで開けてよかったのだろうか)妹のことだから、きっと、たくさんの文章で埋めつくされているに違いない、と思っていたのだけど、ほとんど文字は書かれておらず、「お姉ちゃんの家に帰っておいで。待ってるね。気をつけて帰ってき。」とだけ書かれていた。

私は一人ぼっちじゃないし、無条件に受け入れてくれるところはきちんと存在する。そう思ったら、なんだか泣けてきて、少しだけ泣いた。

この言葉があれば、私はまだがんばれる。明日からまた仕事だ。気合いをいれなくちゃならない。





家族の話

f:id:m_shiro:20170506100122j:plain

昨日、実家に帰省した。

仕事を始めてからちょうど一か月が経つし、ゴールデンウィークということもあって浮き足だっていたのかもしれない。もう、実家に帰ることはないだろうと思っていたのに、ずいぶんあっさりと帰ることが決まった。

帰省といえば、私の中では、家族があたたかく出迎え、犬が駆け寄り、おいしいごはんがでてきて、それを囲んで食べながら、みんなで最近はどうだった、こうだった、などとおたがいの近況について話す、というようなイメージがある。

私は、ここ最近、ずっと、みんなに何を話そうかと考えていた。仕事は大変だけど、楽しいと思えるようになったこと、周りには優しい人たちがたくさんいること、ご飯をきちんと食べていること、他にも話したいことがたくさんあった。

今思えば、初めての帰省に期待を抱きすぎていたのかもしれない。

仕事がおわって、急いでバスにのり、実家に帰ると、出迎えてくれる人はだれもいなかった。家の中は暗く、父は、私たち(母がバス停まで迎えにきてくれた)に背を向けて寝ており、妹は、まだ帰っておらず、朝起きたときには、出掛けていったようで、もういなくなっていた。お互いがお互いに干渉しない、冷たい、以前の私たちのままだった。

考えれば分かることだったのに、なぜ想像できなかったんだろうと思う。私が、家を出る前、父が今まで悪かったと謝ってきたこと、ぜんぶ一からやり直すといってくれたことで、すべてが丸くおさまると安心しきっていたのかもしれない。

人がすぐに変われないことは、私がいちばんよく知っていたはずだ。

今さら、何とも思わないけれど、何も変わっていない状況にすこし虚しくなった。一体、どうすることが正しかったんだろう。だれか答えを教えてくれる人がいればよかったのにね。



夜明け

f:id:m_shiro:20170305164704j:plain

今日の昼、父がいままでのことを謝ってきた。

私は、記憶力がとても乏しいから、うれしかったことも、嫌だったことも、すぐに忘れてしまう。だから、父にされたことは、うっすらと記憶にのこっているけど、大半は覚えていない。ただ、小さい頃から、父が恐かった。

思い返せば、私は、父も被害者だったことに薄々気がついていたように思う。母から、祖父は、お酒が入るとだめな人だったと聞いたことがあった。家庭はたいへんで、会社でもみくちゃにされて、たくさん苦労したのだ。家庭の問題は、子どもが大きくなって、親になったとき、世代をこえて連鎖する。

だから、もういいのだ。父は、自分が間違っていた、気づくのがずいぶん遅くなってしまって悪かった、と言ったけれど、私は、それに気づいてくれたことが、今とてもうれしい。謝ったからといって、今までしてきたことが無くなり、すべてが元通りになるわけではない。でも、きっと、徐々に元通りになる。やっと、前を向ける。後は、私が、私の内面とゆっくり時間をかけて向き合っていけばいい。